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ろくでなし啄木 [いろいろ]

昨日は、急に寒くなって雪がチラチラしました。積るほどでないのでもう殆ど融けてしまいましたが、日蔭の所には雪が残ってます。やっぱり雪が降ると寒いですね~。

1月の中旬に東京へ行った時に、寒いのであまり出歩かなかったのですが・・・1日くらいどこかへ、と思いお芝居を観に行ったのです。芸術劇場で上演中だった「ろくでなし啄木」、です。 1年近く前にパンフレットなどを観たりしながら、下書きしておいたものです。ネタバレですが、お付き合い下さい。

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【あらすじ】 才能がありながら文壇に認められず赤貧洗うがごとくの不遇をかこつ啄木。文学には縁もゆかりもない香具師のテツ。仕事のかたわら親分のいいつけで借金とりを手伝うテツが、啄木の借金をとりたてに行ったことから二人は知り合う。何の接点もない二人はなぜか意気投合。夜な夜ないきつけのカフェーで飲み明かすまでに。いつしかカフェーの女給のトミも楽しい仲間に加わる。そこには微妙な三角関係が生じるが、妻子ある啄木がトミと結ばれ、トミに恋するテツは涙をのんだ。ある日、例によって金に困った啄木は、小金を貯めこんでいるらしいテツにお金を出させる一計を案じ、トミも巻き込んでの大作戦を展開する。しかしこの事件について言うことは三人ともばらばらで、まさに”真実はやぶの中”。一体その時三人には何か起きたのか? (ホリプロオンラインより)

2011年1月18日(土) 東京芸術劇場 中ホール

【脚本・演出】 三谷幸喜
【出   演】 藤原竜也 中村勘太郎 吹石一恵  (途中休憩を挟んで、2時間45分の舞台)

一体その時三人には何か起きたのか、何が真実で、何がうそなのか? 舞台奥で雨が降りしきる。雨音も高い。そこに、藤原竜也演じる石川啄木が黒い帽子に黒いマント、黒い傘を差して立っている。奥の壁に「ろくでなし啄木」の文字が浮き出る。無言で白い顔で土砂降りの中立っている啄木からは冷たい空気が滲み出ている。

石川啄木の死後10年たって建てられた記念碑の除幕式か何かの後、啄木に縁があったらしい2人の男女が話し出す。吹石一恵演じる女「とみさん」は、小料理屋の女将らしい、一方、中村勘太郎演じる「てつさん」は、かんざしやをしていて大繁盛している様子だ。今は裕福な2人であり、12年ぶりに顔を合わせたようだ。
女が男に「12年前のあの夜に何があったのか知りたい」と言い、女が語り始める。

舞台の奥行きを深く使って、手前に寂れた風の旅館の一室、障子が2枚開け閉めできるようになっていて廊下が舞台を横切って真っ直ぐ伸びている。そして、その廊下の向こうに障子1枚を挟んでもう一室ある。天井がなく壁がなく柱がなく、ほとんど障子だけでその空間を作っている。障子が左右から閉まってきてすれ違い、すれ違ってできた真ん中の空間に登場人物が手品のように現れる。歌舞伎の舞台の、からくりの様で面白い。  12年前の「ある夜」の話が始まる。

啄木ととみさんとてつさんは、3人で旅行に来ている。啄木ととみさんは恋人同士で、この旅行はてつさんが費用を全て出して3人で来ているという。啄木は色男の嫌な奴で、てつさんは人のいい明るい男、啄木(てつさんは「ピンちゃん」と呼び、とみさんは「一(はじめ)さん」と呼んでいた)にぞっこんで、気を使いまくり、でもそうやっているのも楽しいという様子は伝わる。

3人で温泉に入ってくるが、何故かとみさんが部屋に戻っても男2人は戻って来ていない。そういうところから話が始まる。

てつさんは、実は元々はとみさんに惚れていて、告白して振られたという過去を持つ。そのてつさんにからかわれた途端に啄木はむっとして(元々、激しく気分屋という設定)、とみさんに、てつさんに美人局を仕掛けてお金を取り上げようと持ちかける。最初は「そんなことできない」と言っていたとみさんだけれど、「これ以上、てつさんに世話になるのは嫌だ」「お金を巻き上げるのはいいの?」「その方がてつさんのためだ」という訳の判らない会話をするうちに、段々その気になって行く。

そうして、とみさんはてつさんを誘惑し、しかし「何をやっているんだ!」と助けに来てくれる筈の啄木は現れない。とみさんはてつさんに美人局の計画をそっくり伝えた後、「なかったことにしてくれ」「100円を一さんに恵んでやってくれ」と頼み、てつさんは「全部が繋がった」とそれを受け入れる。

頼む方も受け入れる方も曲者?・・・。そして、一度は「100円」と言いつつ、てつさんの有り金全部115円をくれ、と言ってもらってしまうとみさんはなかなかの強か者である。

そして、とみさんが「てつさんに全部正直に話したら、100円をくれた」と戻って来た啄木に告げる。なかなか信じようとしなかった啄木だけれど、ついに信じてとみさんを抱こうとし、そしてふいっと「雨の中を待っていたら寒くなったから温泉に行ってくる」と出て行く。そして、二度と戻って来なかった。とみさんが語る「12年前の夜」はこういう夜である。そして、最初のシーンに戻り、今度はてつさんが「12年前の夜を語りましょう。でも、聞きたいと言ったのがあなただということは忘れないように」と一転、冷たい声で宣言したところで休憩に入る。

後半のスタート、やはり舞台奥で啄木が黒い帽子に黒いマント、黒い傘を差して雨に打たれている。ただし、幕開けでは啄木はこちらを向いていたけれど、今度は背中を見せている。
そして「ろくでなし啄木」の文字も裏返しになっていて、「これからお見せするのは、前半にお見せしたお話の”裏返し”ですよ」というかのようだ。  後半の舞台の語り手は、てつさんである。

てつさんは、実は啄木から「とみさんは、やっぱりてつさんのことが好きなんだ」と大嘘を吹き込まれ、しかも啄木の口車に乗って「100円でとみさんを買う」ような羽目になり、こうした前段があったからこそとみさんが誘惑したときに簡単に騙されてしまったんだ、ということが明かされる。
どうも、「風呂に入ってくる」というのは大抵の場合は嘘で、温泉に入ると言って姿を消していた間は男2人が、というよりは、啄木が必死にてつさんを騙くらかそうとしていた時間だった。

そして、実は啄木が美人局を企んだ、ということが判った後の、啄木とてつさんの「対決」は、てつさんの独壇場である。中学のときに両親を亡くしてテキ屋で生きてきたてつさんは、どんなに人が良かろうと、本気になれば啄木が逆立ちしたってかなう相手でははないという意気込みをみせる。 中村勘太郎はテキ屋という商売で、人が良くて、セリフも動きもコミカルでテンポのいい役柄を演じていた。ふんどし姿のシーンが結構長かったのだけれど、とても鍛えられた身体だということがその動きなどから分かる。

結局、美人局を仕掛けられたてつさんは、啄木に「小さくてもいいから東向きに大きな窓のある家を見つけて2人で暮らせ。そこで産まれた話を自分は読みたい」と告げて励まし、美人局の片棒を担がされたとみさんは、啄木が聞いているとも知らずに「自分は居酒屋を経営して、その2階で流行作家になった啄木が小説や詩や短歌を書いている」という夢を語る。とみさんが夢を語り終えたとき、啄木は姿を消しており「朝の光が差し込んでも戻っては来ない。
しばらくして、てつさんもとみさんもそれぞれに、啄木が母と妻と娘とで新居を構えたことを知る。

そこで、終わりかと思ったのだけれど、仕掛けはここから動き出す。
最初のシーンに戻り、二人がしみじみと啄木を思い出しているところに、じゃん! と奈落から飛び出すように(というか本当に跳ねていた)袴姿の啄木が下駄を持って登場した。もちろん、幽霊である。
幽霊の啄木が「本当のこと」を雄弁に語り出し、独り舞台。その間、てつととみの動きは止まる。

とみさんを大切に思っていたこと、旅行前に北海道から家族が上京すると連絡があったこと、それに絶望したこと、だったら死んでしまおうと思ったけれど自殺する根性はなく、だったらとみさんとてつさんを酷い目に遭わせてより自分を憎んだ方に殺されようと思ったこと、そのために部屋にりんごを剥くための包丁を置いておいたこと。
この「包丁があった」ことを思い出すために、とみさんの話では部屋に「りんご」があったことになっていた。でもてつさんの話では部屋に「みかん」があったことになっていて、啄木が「その違いが重要なんだよ!」と幽霊のくせに騒ぎ立てる。
判りやすく違いを出しているのだ。

啄木は、とみさんを抱いたときに、とみさんがてつさんに抱かれたこと、2人して啄木に内緒にしようと騙していたことが許せなかったと語る。2人ともが自分を憎むように仕向け、より憎しみが大きかった方に殺されようと思ったのに、2人とも自分を憎んではくれなかったと語る。
短歌の制約から飛び出そうとして実は誰よりも制約を意識している自分には、てつさんの自由さが憎くて羨ましかったのだと語る。とみさんが自分の短歌に節をつけて詠ったとき、永遠の命が吹き込まれたように感じたと語る。啄木はどこまで行っても「格好つけた自分」しか語っていないようだ。

啄木の真実はどこにあったのだろう・・・朝の光だけが真実なのか?そこで自分のやるべきことを知った啄木は、翌年に「一握の砂」という歌集を出す。

何が真実かは別として・・・3人の演技もよかった。ハラハラドキドキして引き込まれて、面白く楽しかった。今までの啄木像は、どこかへ吹っ飛んだようだった。

(長々とお読みいただいてありがとうございました)


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コメント 15

チョコシナモン

|。・ω・|ノ コンバンワ
もうそちらは雪がチラチラ|・ω・)???
今日の日中は車に乗っていると暑いぐらいでした。
あらすじを読ませて頂いただけでも面白そうで
劇場で見たらそれ以上でしょうね。

by チョコシナモン (2011-11-22 17:23) 

ランランラン太郎

コレ、私も観ました。
とても面白かったですね。
勘太郎くんもよかったし、吹石さんもよかったし、
もちろん藤原竜也君はかっこよかった。
ちょっと甘えん坊でわがままだけど許せちゃう、という役が
ぴったりでした。
見終わった後、果たして啄木は本当にこんな人だったのかしら?
と考え混んじゃいました(笑)
by ランランラン太郎 (2011-11-22 18:41) 

ムーミン

皆様こんばんは♪ nice&コメントありがとうございます^^

◆チョコシナモンさん  寒くなりました。来週は少し持ち直すようですが
今週は、ほとんど雪マークです。1年前に観たお芝居ですが、読み直してみたら思い出して楽しかったです(^^)

◆ランランラン太郎さん  ご覧になってたんですね。面白かったですね、テンポが良くって。本当にどこからこういう啄木が現れたんだろうって、考えちゃいましたよね。あまりお芝居を観る機会がなくって・・・本当に楽しかったです(^^)

◆xml_xslさん、majoramuさん、マチャさんありがとうございます。
by ムーミン (2011-11-22 20:50) 

せつこ

そんな面白いお芝居を見ましたか。。。啄木のイメージが変わりそう♪
詩人ってかたぶつのイメージだったのに^^
by せつこ (2011-11-22 21:23) 

kiko1578

もう雪ですか。やはりそちらは寒いですね。
東京の娘さんの所へ行かれてお芝居見ていいですね。
やはり娘の方が良かったかな。娘はいないので仕方
ありません。
by kiko1578 (2011-11-22 21:59) 

ムーミン

皆様こんにちは♪ nice&コメントありがとうございます^^

◆せつこさん  本当にイメージががらっと変わりますよね(*_*)
でも意外とそんな面もあったのでは、と最近思い始めてます。いい句を作るんだから、凡人とは違うのでは、と・・・(^^)

◆kiko1578 さん  きょうは陽ざしが強くって、いいお天気です。でも風が冷たいです。本格的な冬が来るまで、こんな日の繰り返しです。
いいのか悪いのか、娘とはよく話をします。けっこう細かい事まで・・・。
何にしても、足腰が弱くならない様にって思ってます(^^)

◆グリーンさんありがとうございます。
by ムーミン (2011-11-23 13:03) 

きまじめさん

啄木がそこらじゅうに借金しまくっていた話は知っていましたが
そういう性格も下敷きになっているのでしょう。
面白いあらすじになっていますね。
実力俳優に三谷幸喜の脚本・演出では面白くないはずがありませんね。
みてみたいです。
by きまじめさん (2011-11-23 16:02) 

ミモザ

ムーミンさん、こんばんは~!
そちらではもう雪がチラホラですか。早いものですね。
この間まで暑い暑いと言っていたのにね。
こういう本物のお芝居は実際に見たらすごく感動的でしょうね。
お芝居って最後に見たのはいつのことだろう??
孫が中三なのですが、「本物のお芝居やミュージカルが見たい」と
言います。いいものを見せてあげる時期かもしれません。
by ミモザ (2011-11-23 16:43) 

ムーミン

◆きまじめさんこんばんは♪ ありがとうございます^^
啄木の性格がこうだったのかは、正直定かではないんですが・・・いろんな面があってこのお芝居が作られたんでしょうね。
テンポがよくって、若い3人のパワーが舞台にあふれてました(^^)

◆ミモザさんこんばんは♪  ありがとうございます^^
雪は大体消えてしまったんですが、日蔭にまだ少し残ってます。そのせいか陽が出てても風が冷たいですよ。来週は少し回復しそうですが、こうやってどんどん冬将軍が近づいているんでしょうね(^^)
最近はなかなかお芝居には行けないんですが、東京へでると何かは、と思って美術館へ行ったりしてます。6本木まで、一人で行けるようになったんですよ。お孫さんと行けるなんて、いいですね~!

◆JOKER南町田さんありがとうございます。
by ムーミン (2011-11-23 22:03) 

Bono

やはり脚本が三谷幸喜というところから、独得の人間ドラマに脚色される感じはあるかもしれませんが…
まあ実際どうであるかは別として、それはそれで面白いですね。(^_^)
by Bono (2011-11-23 23:19) 

ムーミン

◆Bonoさんこんばんは♪ 
何か資料が残っているものなのか???・・・でも、まあこれも有りかななどと思ってます(^^) いろんな見方があるでしょうからね^^
by ムーミン (2011-11-24 18:48) 

畑の帽子

いいなぁ、三谷幸喜さんなんですね~。
主演も良いし、おもしろそうです。
舞台…最後に見たのは東京の国際フォーラムでミュージカルでした。
もう二年近く前かもしれない…。
映画にしても舞台にしても、そこにいる間は別世界。
私もまた観に行きたいです。 ^^
by 畑の帽子 (2011-11-26 11:09) 

ムーミン

◆畑の帽子さん 遅くなりましたが、ありがとうございます^^
金、土と出かけてて、きょうはゆっくりして今PCを開けたところです。
私も最近は滅多に観ないのですが、話題作はやっぱりいいですね。
面白かったと思ながら外へ出ると、爽快な気持ちになれました(^^)
刺激になるというか、自分の行動に幅が出る様な気持ちになれますね。

◆moroqさん、OJJさん、tanaka-ma3さんありがとうございます。


by ムーミン (2011-11-27 15:00) 

ひよこ豆

訪問ありがとうございます。
お芝居をみる機会はあまりないのですが、美術館は行きます。
あもしろいお話ありがとうございました('◇')ゞ
by ひよこ豆 (2011-11-27 21:59) 

ムーミン

◆ひよこ豆さん ありがとうございます。
東京へ行った時、美術館へ行く方が多いのですが、1月は
話題にもなっていたのでお芝居に行きました。
たまにはいいなぁと思ってます(^^)
by ムーミン (2011-11-28 12:33) 

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